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本サイトで、もみ殻培地を利用するイチゴの高設栽培を紹介したが、この培地は花や野菜の苗作りにも広く使われ、また隔離ベッドのような栽培方法でいろいろな作物を育てられる。実際、筆者はこの培地をシンビジウムや観葉植物の培土に使って、良好な結果を得ている。世の中でもみ殻培地と呼ばれるものには、生もみ殻、発酵もみ殻、もみ殻くん炭、それら単体あるいは土やピートモスなどとの混合物等、様々な仕様がある。私たちが利用するもみ殻培地の原型は、1980年代後半に東京都農業試験場(当時)にいた小沢聖さん(現、明治大学)がロックウールの代替品として開発したものだ。もみ殻と土を適切な比率で混ぜ、これに養液を供給して、葉菜類でロックウールと同等の生育を得た。生もみ殻の代わりにくん炭を使っても生育は良くならないから、わざわざ手間をかけてくん炭を作る必要はない。

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もみ殻培地試験の様子(チンゲンサイ、コマツナ)

もみ殻くん炭(左)は生育ムラが大きい

もみ殻くん炭(左)は生育ムラが大きい

現在のもみ殻培地の仕様は、生もみ殻と土をおおよそ7:3の割合で混合し、これに肥効調節型の肥料と炭を加えたものだ(詳細はこちら)。肥料を培地に加えて、水をやるだけで作物を栽培できるようにした。1)水はけが良く根腐れが起こりにくい、2)水はけが良いわりには水持ちも良い、という特長があるから、灌水の量や頻度をあまり気にせず、一度にざっと灌水すれば、ほとんどの植物を“それなりに”育てられる。“それなりに”とは、植物の種類ごとに調合した専用培土に比べて100点満点は取れないが、誰がどう管理しても70~80点は取れるという意味だ。

この特長を活かして、何百種にものぼる植物の苗の管理をパートさんに任せ、規模拡大に成功したガーデニング用の苗生産者がいる。先の夏どりイチゴを未経験の学生が毎年“それなりに”栽培できるのも、この特長のお陰だ。土の混合割合は20~40%が適正。それより少ないと水持ち、肥料持ちが悪く、それより多いと根腐れが生じやすい。肥料は作物の生育期間や吸収量にあわせて、肥効期間の異なるものを調合するのが良い。夏どりイチゴでは1株当たりの窒素量が2~2.5gになるように、70日タイプと180日タイプを等量混合した。培地の量も、作物の生育期間や繁茂程度で決めれば良い。イチゴなら1株当たり2リットル、トマトだと5~10リットルというところ。ベッドの大きさや材質も適当に工夫すれば良い。根を冷やしたくなかったら通気性のない素材、冷やしたかったら不織布などという具合だ。

さてこの培地を使うと、いろいろと面白い栽培が楽しめる。例えば、水田でトマト栽培とか、屋上にプールを作って菜園など、湛水状態で作物を育てることができる。もみ殻培地では毛管現象が起こらないので、下層に水が溜まっていても、上層まで水浸しにはならない。このため上層の根には常に酸素が供給される。一方、下層の根は水の中か、水面付近の湿った培地内に発達する。一個体の植物の根を二つに分け、一方を湿った土に、他方を乾いた土に植えると、湿った土の根から乾いた土の根に水が、また逆方向に酸素が供給される。この機能がとくに発達する植物(例えば、トマト)であれば、容易に湛水栽培できるというわけだ。

水田トマト栽培

水田トマト栽培

屋上菜園でナスを湛水栽培

屋上菜園でナスを湛水栽培

フラワートーテムポールも簡単に作れる。上から十分に灌水すると、ポールの上から下までほぼ同じような揚水量に維持されるからだ。不織布でエア枕のような構造を作り、それにもみ殻培地を入れて花を育てておくと、タイルの上に運んできて「どこでも花壇」ができあがる。いずれも数日~1週間に1回、たっぷりと灌水すれば良い。

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高さ2.3mのフラワートーテムポール

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玄関前にある日突然花壇ができる