四季成り性イチゴ品種‘なつあかり’の増やし方

2019年7月2日

‘なつあかり’は良食味の夏秋どりイチゴ品種で、購入した苗を自分で増殖できる(ただし増殖した苗を他人に譲渡・販売はできない)。ところが近年、四季成り性なのに夏に花の咲かない株が増え、苗の販売をやめる業者や栽培を断念する生産者が出てしまった。東北農業研究センター、青森県産業技術センター、岩手大学が共同して原因を調べたところ、開花不良は遺伝的な変異で、その性質がランナーによる増殖で次世代にも引き継がれることが分かった。また開花不良株は正常株に比べて数倍のランナーを発生するので、気づかないと2、3年で不良株だらけになることも分かった。詳細は、専門誌に投稿予定の論文をご覧いただきたい。

 ここで言う開花不良とは、7月以降に新たな花房が発生せず、夏から秋の果実を収穫できない現象である。四季成り性品種は、冬に花芽ができて春に開花する性質と春以降に花芽ができて夏以降に開花する性質を併せ持つ。前者は一季成り性品種と同じ性質である。開花不良株は後者の性質だけを失ったので、春(6月あるいは7月初めまで)は開花する。したがって7月中旬以降の開花の有無が、正常株と不良株を見分ける重要なポイントとなる。以下、ランナーを用いた増殖の注意点を記す。

  1. ランナーを採るための親株は、屋外か無加温のハウスで越冬させて、十分に低温に当てる。低温遭遇が不十分だとランナーが発生しない。日中の気温が15℃程度を越えると低温の効果が抑制されるから、晴天日はハウスの窓を開ける。屋外では積雪下が望ましい。積雪が少ない年もあるから、べたがけをすると良い。乾燥や過度な寒さによる枯死防止に効果がある。
  2. 親株は3月中~下旬にハウス内の栽培床に植え付ける。親株を早く植えれば、それだけランナーも早く発生するので、遅くても4月上旬には植え付けを終えたい。容器栽培の場合は一株あたりの培地量を4~5リットル以上とし、肥培管理に努める。屋外で親株を育てる場合は、前年の秋、最低気温が5℃以下になる前に植え付ける。春先からトンネルで保温するとランナー発生が早まる。
  3. 6月中旬(15日くらい)までは親株の花房を取り除く。この時期までに発生する花房は晩秋から春にできた花芽(一季成り性)の可能性が高い。
  4. 7月中旬以降、週に一回程度、親株を観察し、正常株か不良株かを見分ける。7月から9、10月まで連続的に花房が発生する株が正常株である。花房頂花の開花を観察した日を記録する。花房をそのまま残すときは、花房にラベルをつけて、後から出てくる花房と区別する。花が一輪しか付かない花房は、弱勢花の可能性があるからカウントしない。一季成り性品種でも夏に弱勢花が咲くことがある。
  5. 親株から実を採らない場合は、開花を記録した花房を切除すると良い。観察の間違いも減るし、ランナーの発生も促進される。
  6. 親株から実も収穫する場合は、最初に発生するランナー(太郎)を鉢受けし、活着したら切り離して、7月上旬までにベッドか畑に植え付けて増殖親とする。太郎がどの親由来か間違えないようラベルする。親株では花房発生を観察しながら、実を収穫できる。
  7. 7月以降開花しない株は不良株の可能性が高いから、親株、ランナーを含め全て処分する。
  8. 7月あるいは8月初めで開花を終え、その後に花房が発生しない株もある。このような株は収穫を期待できないから、処分する方が良い。
  9. ‘なつあかり’は発生するランナーが少なく、さし芽の成功率も高くないので、確実に苗を確保するために鉢受け採苗を推奨する。発生したランナーは順次鉢受け(畑の場合は根下ろし)する。このとき、全てのランナー(苗)がどの親由来か分かるようにラベルする。ランナーは11月に親(または増殖親の太郎)から切り離す。
  10. 翌年の増殖には、観察記録を参考にして開花持続性に優れた親株を選び、その株由来の充実した苗を利用する。増殖用の親株は毎年更新し、2年、3年株は使わない。

以上のように注意深く採苗しても、開花不良株が突然発生する可能性がある。毎年、7月以降の開花を確認した株から苗を採ることが不良株を増やさないポイントである。なお開花不良の変異は、‘なつあかり’に限らず他の四季成り性品種でも起こる可能性がある。他の品種で開花不良が疑われる場合は、ここに記した手順を参考にされたい。

(本稿の取りまとめにご協力いただいた方:濱野惠、本城正憲、伊藤篤史、町田創、加藤一幾、文責:岡田益己)