もみ殻培地の混合土の課題と対策

2017年9月20日

このサイトでもみ殻培地は,安くて簡単に様々な作物を育てられると紹介しました。とくに夏どりイチゴの高設栽培用として,もみ殻を容積比で75%,小粒の赤玉を25%混合し,これに炭の粉を3%程度加え,肥効調節型肥料(エコロング)を使う培地を奨めてきました。しかし,この組成の培地をいろいろな場面で使ってみると,いくつかの課題も明らかになってきました。ここでは次の2点について,対策を考えます。
● 水持ちが悪い
● 微量要素欠乏が出やすい

1.水持ちが悪い
イチゴの高設栽培では「活着が悪い」,トマトのポット育苗では「育ちが悪い」(一方で「しまった良い苗ができる」)という声が聞かれます。これは保水力が小さいためで,とくに雨風にさらす年月が短いもみ殻で起こりやすい。頻繁に灌水すればよいですが,そういうわけにもいきません。
保水力を高めるためには,1)赤玉の割合を増やす,2)赤玉より小粒の土を使うという2つの方法があります。赤玉の割合を増やす場合は,最大でも40%程度にとどめてください。これ以上増やすと,軽量で通気性が良いというもみ殻の長所が損なわれてきます。2)の方法では,赤玉よりずっと小粒(顆粒状)の土,例えば,水稲育苗用の粒状培土(肥料が少し入っていますが,その影響は小さい)を使います。土の割合が同じ25%でも,小粒だと容積当たりの土の重量が増え,結局,土の割合を増やすことになります。下の写真は,粒状培土と赤玉(小粒)の比較です。水稲育苗の覆土用培土は無肥料なので,粒状培土より良さそうですが,微量要素欠乏が出やすいのでお奨めしません(次項を参照)。
粒状培土を使うときは,ほんの少し水を加えて湿らせてから,もみ殻と混合してください。乾いたまま混ぜると,もみ殻と分かれてしまい,うまく混ざりません。加える水の量は,粒状培土の容積の5〜10%です。加減を見ながら加えてください。

左:赤玉(小粒)を使ったもみ殻培地, 右:水稲育苗用覆土を使ったもみ殻培地

 

2.微量要素欠乏が出やすい
水稲育苗の覆土用培土を25%混ぜたもみ殻培地で,高温の時期にトマトをポットで育苗したところ,鉄とホウ素の欠乏と見られる症状が多発しました。同様の培地でトマトを高設栽培しても,同じ症状が出ました。下の写真をご覧ください。ホウ素欠乏は,先端葉が黄化したりエビのように巻いて小葉化します。一見,ウィルスと見間違う症状です。こうした微量要素欠乏症は,これまでのイチゴ栽培では気づかなかった症状ですが,イチゴに比べて生長が旺盛なトマトで明らかになりました。生長が遅いと,炭からゆっくりと供給される微量要素で間に合いますが,生長が早いと間に合わないようです。
欠乏の原因は,使用している土にありそうです。覆土用培土は高温で焼成しアルカリの強い土です。一応,pH調整はしていますが,金属イオンの吸収が阻害されやすいようです。実は,赤玉も水稲育苗用の粒状培土も熱を加えているので,このような症状が起こりやすいと考えます。この対策には,1)焼いていない山土や畑の深土を使う,2)微量要素を含むエコロングトータルを使うという2つの方法があります。なおエコロングトータルには,石灰が入っていないので,炭を必ず加えてください。
なお欠乏症の現れ方は,作物や品種によって大きく異なります。同じトマトでも,大玉系とミニトマトを比べると,前者の方が発生しやすいようです。

トマト苗の鉄欠乏症

高設栽培トマトのホウ素欠乏症

編集者 岡田益己

もみ殻培地で野菜や花を育てよう

2013年4月19日

本サイトで、もみ殻培地を利用するイチゴの高設栽培を紹介したが、この培地は花や野菜の苗作りにも広く使われ、また隔離ベッドのような栽培方法でいろいろな作物を育てられる。実際、筆者はこの培地をシンビジウムや観葉植物の培土に使って、良好な結果を得ている。世の中でもみ殻培地と呼ばれるものには、生もみ殻、発酵もみ殻、もみ殻くん炭、それら単体あるいは土やピートモスなどとの混合物等、様々な仕様がある。私たちが利用するもみ殻培地の原型は、1980年代後半に東京都農業試験場(当時)にいた小沢聖さん(現、明治大学)がロックウールの代替品として開発したものだ。もみ殻と土を適切な比率で混ぜ、これに養液を供給して、葉菜類でロックウールと同等の生育を得た。生もみ殻の代わりにくん炭を使っても生育は良くならないから、わざわざ手間をかけてくん炭を作る必要はない。

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もみ殻培地試験の様子(チンゲンサイ、コマツナ)

もみ殻くん炭(左)は生育ムラが大きい

もみ殻くん炭(左)は生育ムラが大きい

現在のもみ殻培地の仕様は、生もみ殻と土をおおよそ7:3の割合で混合し、これに肥効調節型の肥料と炭を加えたものだ(詳細はこちら)。肥料を培地に加えて、水をやるだけで作物を栽培できるようにした。1)水はけが良く根腐れが起こりにくい、2)水はけが良いわりには水持ちも良い、という特長があるから、灌水の量や頻度をあまり気にせず、一度にざっと灌水すれば、ほとんどの植物を“それなりに”育てられる。“それなりに”とは、植物の種類ごとに調合した専用培土に比べて100点満点は取れないが、誰がどう管理しても70~80点は取れるという意味だ。

この特長を活かして、何百種にものぼる植物の苗の管理をパートさんに任せ、規模拡大に成功したガーデニング用の苗生産者がいる。先の夏どりイチゴを未経験の学生が毎年“それなりに”栽培できるのも、この特長のお陰だ。土の混合割合は20~40%が適正。それより少ないと水持ち、肥料持ちが悪く、それより多いと根腐れが生じやすい。肥料は作物の生育期間や吸収量にあわせて、肥効期間の異なるものを調合するのが良い。夏どりイチゴでは1株当たりの窒素量が2~2.5gになるように、70日タイプと180日タイプを等量混合した。培地の量も、作物の生育期間や繁茂程度で決めれば良い。イチゴなら1株当たり2リットル、トマトだと5~10リットルというところ。ベッドの大きさや材質も適当に工夫すれば良い。根を冷やしたくなかったら通気性のない素材、冷やしたかったら不織布などという具合だ。

さてこの培地を使うと、いろいろと面白い栽培が楽しめる。例えば、水田でトマト栽培とか、屋上にプールを作って菜園など、湛水状態で作物を育てることができる。もみ殻培地では毛管現象が起こらないので、下層に水が溜まっていても、上層まで水浸しにはならない。このため上層の根には常に酸素が供給される。一方、下層の根は水の中か、水面付近の湿った培地内に発達する。一個体の植物の根を二つに分け、一方を湿った土に、他方を乾いた土に植えると、湿った土の根から乾いた土の根に水が、また逆方向に酸素が供給される。この機能がとくに発達する植物(例えば、トマト)であれば、容易に湛水栽培できるというわけだ。

水田トマト栽培

水田トマト栽培

屋上菜園でナスを湛水栽培

屋上菜園でナスを湛水栽培

フラワートーテムポールも簡単に作れる。上から十分に灌水すると、ポールの上から下までほぼ同じような揚水量に維持されるからだ。不織布でエア枕のような構造を作り、それにもみ殻培地を入れて花を育てておくと、タイルの上に運んできて「どこでも花壇」ができあがる。いずれも数日~1週間に1回、たっぷりと灌水すれば良い。

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高さ2.3mのフラワートーテムポール

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玄関前にある日突然花壇ができる

 

編集者 松嶋 卯月